それでもボクはキミを想う


『清水寺に行こか。』

人混みは苦手やから人気少無い早朝を狙おて仁王門をくぐり本堂へ向かい清水の舞台から見る朝靄の風景を見に行った。
誰もいない舞台を目の当たりに優雅に拝観し、そして奥の院へ進むも拝観する人もまばらやった。

夜景もええけど朝も中々ええもんや。

早朝の気温はかなり低く寒い。

清水寺から清水道・産寧坂・二年坂・ねねの道など有名な観光地の道やから店もぎょおさんあって普段は凄い人混みになるこの道も、早すぎて店も開いてない。

静かに続く石畳の坂道をまだ冷たく感じながら、ぶらぶら散歩してる間に時間もだいぶん過ぎてすれ違う人もだんだん増えてきた。

円山公園に着く頃には観光客の集団もあちらこちらにと人も多かった。

『この辺は春になったら桜が咲いてお花見場所や。』

『桜、綺麗だろうね…』

まだ蕾もない桜の木々をみながら円山公園をぬけ八坂神社でお参りして祇園に向かった。

『あら、仁じゃない?
今日は仕事休みなの?』

声を掛けられて振り向いたら幼馴染みの桜子がボクらを見てニヤニヤしとった。

桜子の家は京都でも有名な老舗呉服屋で、幼馴染み言うてもおじぃが桜子のとこのおじぃと仲良ぉて、勝手に二人のおじぃの間でボクと桜子は許嫁や言うとったんを昔聞いた事あった。

まぁ、でも桜子にも彼氏おるんは知っとるから莉乃ちゃんとボクが一緒におっても邪魔してこんし、サバサバした姐御肌な性格の桜子やから莉乃ちゃんのことも気に入ると思った。

『久々の休暇や。桜子は得意先周りかいな?』

キミに桜子の事をボクの幼馴染みと紹介した。

『そうよ。今の時期忙しいのよねぇ…』

と言うて桜子はボクの一歩後ろにおるキミをしげしげと見とった。
桜子はボクのショップにもちょこちょこ顔だしよるから響の事を知っとる。“響の姉が莉乃ちゃんなんや”と紹介したら、

『あたしは西小路桜子(にしのこうじさくらこ)よ、仲良くしましょ。』

『初めまして桜子さん。』

『そんな固くるしくしなくても桜子でいいわよ。
ねぇ、ちょっとデート中にお邪魔して悪いんだけど、最近うちの店で観光客相手に着物のレンタル始めたんだけど、二人でどう?』

とちゃっかり営業トークを始めてきた。

かっ観光客て…ボクは京産まれの京育ちで地元やねんけど…

まぁキミの着物姿は可愛ええやろなぁ?
と何や色々思いながらボクはキミに聞かずに“ええよ”と返事した。

『んー、でもどうしても後一件だけまわらないといけない所あるのよねぇ…
こっちから頼んどいて悪いんだけどあそこの甘味屋で少しだけ待っていてもらえないかしら?
得意先まわったらあたしも行くから、それからうちの店に行きましょう。』

桜子はキミに“葛切りがお薦めよ♪”と言い仕事に戻って行った。
ボクとキミは甘味屋さんで、キミはお薦めの“葛切り”食べ、ボクは珈琲飲みながら、桜子が戻って来るんを待っていた。
 
甘味屋で合流した桜子も、ちゃっかり葛切り食べてから店に向かった。

たまたま桜子に会うて、キミに紹介したけど、二人はすぐに意気投合して会話も弾んどった。