暗くて車種がはっきりと見えなかったが、僕達のいる所より少し手前にとまり、こちらにこず、ドリフトターンをして行ってしまった。
その車の後ろ姿が、セフィーロに見えた…
“えっ?あのセフィーロは…!”
僕が、ぼーっとその車が去った後を見つめていたら、手を降りながら、
『響~!!』
と姉貴が僕を呼び、駆け寄ってきた。
『姉貴!!』
『莉乃姉! ! 』
『莉乃さん!!』
『お待たせてごめんね!』
『いいっすよ。』
『俺達も今来た所ですから、大丈夫ですよ。』
『ところで姉貴、さっきのは誰なの?』
『一ノ瀬さんって知ってる?
ギャラリーで見たあのセフィーロの人。』
姉貴が答えると、浅井と久須本さんがお互いに顔を合わせて驚いていた。
『莉乃姉“一ノ瀬”って、あのセフィーロ乗ってる“一ノ瀬仁”っすか?』
『たぶん…あっ、本人には聞いてないんだけど、検問でお巡りさんがその人の免許証見てそんな名前言ってた。』
『姉貴…その人の隣に乗りたかったよ…』
『なっなぜ!?
よりによって一ノ瀬さんなんだー!!
俺に勝ち目はあるのか!?』
“あぅー”と項垂れ落ち込む久須本さんを余所に羨む僕…そんな二人を冷静に浅井が言ってきた。
『あの一ノ瀬さんが…?
あの車には例えリーダーでも女でも走る時は誰も乗せない事はみんなよく知ってるんすよ。
あの助手席に乗せるなんて…信じられないっすよねぇ?先輩。
ところで莉乃姉は、一ノ瀬さんと知り合いだったんっすか?』
『違うよ。』
『ええっ!!そうなんっすか?
俺、あの人何か苦手なんっすよ…』
『なんで?』
『んー、あの人、いつも笑い顔なんっすけどねぇ…
なんか何考えてるか解らないんっすよね~?
話した事もそんなねぇし…』
『そうだよな…
話しずらいオーラが…
俺もどちらかというと苦手だな…』
『あのセフィーロの人…一ノ瀬さんって言うんだ…
一ノ瀬さんとは面識ないけど、あの走りは憧れるなぁ…』
僕はギャラリーで見て憧れていただけで名前すら知らなかった。
みんなの苦手意識と違い、僕はただ、今度会えたら、姉貴の事をお礼言わないと!なんて考えていた。
その日はもう走れないから、久須本さんと浅井の二人と別れ帰った。