お互いに顔を背けて沈黙が続く中、缶コーヒーを飲み干してキミに聞いた。

『何であんな所に1人でおったん?』

『 弟が走りに行ったから、待ってたの。』

何か無防備すぎるキミに腹が立つ…
純粋に走りに来てる奴らばかりやない。
軟派目的の奴に連れ去られとったら…

そんなボクの心配をよそに、キミは呑気に…

『私、見るのも初めてだったの。
何も知らないし、わからないけど、あなたが走ってたのを見て鳥肌たっちゃった。』

目をキラキラと輝かして“ 弟がローレルに乗ってるの”って微笑んどった。

『弟くん、ローレルかぁ…
中々エエ趣味しとるやん。』

二人飲み終わった空き缶捨てて、周りを見渡せば、今、駐車場に誰もおらんし、ちょうど車も止まってないのを確認した。
キミに“ベルトしてしっかり持たれて座っとき”と告げ…

“ヴォーヴォーガガガギャアァァァ…”

ボクはゆっくり車で円を描いた。

『怖ぁない?』

『だっ大丈夫…』

なんや少し声震えとったから見たけど一瞬びっくりしとっただけみたいやから続けて車で八の字描いた。

様子みたけどすぐ慣れたみたいやし、少し先の道まで戻り、直線走って一ヶ所目のドリフトコーナー、二ヶ所目のドリフトコーナーを軽く流し抜け、待ち合わせの駐車場に繋がる直線の道を直ドリした。

まぁ、短いコースやから、あっちゅう間に終わった。

『…体の一部みたい…素敵な車ね。』

なんて相棒を誉めてくれたんが嬉しかった。
ちょっと走り屋の世界をキミに教えたかっただけ。
調子のって遊んどったら待ち合わせ忘れそうになりそうや。

乗せてくれ言うて群がってくる子は皆、ボクをアクセサリー代わりにしか見てなくて、カッコええ車で、派手に激しいドリフトしたったら喜ぶような子ばっかりやから、ボクの車やなかってもよかった。

だから乗せんかった。

でもキミとやったら、たまにこないして乗るんもええかなぁ?なんて思たわ。

『ねぇ、“ドリフト”って、見てた時は早く回って見えたのに、乗ってたらフワッて体が浮いて景色がスローに感じるね!!
一瞬まわりが止まってる感じがする。』

なんて感激してくれてたけど、残念ながら目的地にもうすぐ着きそうや。

待ち合わせ場所に戻る時、時計を見た。

二人でいたのはたった一時間弱やった。

ボクとキミが過ごした時間はあっと言う間に終わりがきた。