「一人で大丈夫だもんっ」

うっかり涙まで見られて、彩華は慌てて伸彦を振り払う。
夏休み明け間近の繁華街は、大学生で溢れていた。

休み明けにキャンパスを駆け回るであろう噂話を想像して、伸彦は少しうんざりしなくもない。

……まぁ、でも、そのほうが好都合かもしれないな。
と、伸彦は一瞬で総合的に判断した。

「鍵、本人に突き返せば?
俺、本当に付き添うよ」

彩華は唇をかみ締め、考えを巡らせる。

「一人で傷ついて終わらせる必要ないと思うけど。
少なくとも、向こうに傷ついたことを知らせてあげてもいいんじゃない?」

「斬新」

彩華は目を丸くする。

「何が?」

「ヒコから恋愛論が聞けること」

伸彦は疲れたかのように肩を落として苦笑した。

「……そう?」

「うん。
分かった。
とりあえずもう一回Little Tokyoに行ってみる。
でも、ダブル浮気みたいなのは嫌だから、一人で行くけど。
じゃあね」

彩華はにこりと笑うと、今度こそ一人で歩き出した。



眠れない夜が、始まろうとしている。