伸彦は有名な女性ボーカルのバースデーソングを指定した。

「これ、歌える?」

「大丈夫」

彩華はリハがないことに不安を覚えたが、それを飲み込みにこりと笑って伸彦のキーボードにあわせて歌った。

みんなが息を呑むほどの、上手さ。
正直、キーボードを弾くよりずっと、歌が上手い。

歌い終わった彩華はマイクを掴んで閉めの挨拶をした。

「今日は、本当にありがとうございました。
皆のお陰で、20代の初日がとても楽しい日になったことに心から感謝します」

暖かい拍手が沸きあがる。

伸彦が彩華を見て、ふわりと微笑んだ。




ああ、恋も夏もあっさりさっぱり終わったけれど。

それも良かったかなと、彩華は暖かい拍手に包まれてもう一度深く頭を下げながらそんなことを想っていた。

【了】