当初の目的の喫茶店にモーニング終了ぎりぎりの時間に入り込んで、二人で朝食をとった。

平日、午前11時前の海辺の喫茶店には客はほとんどいない。
店内に流れるジャズがゆったりとした時間を演出していた。

二人とも、これといった会話を交わさない。

彩華は熱いコーヒーを飲みながら、いい加減眠たいなと、重くなった瞼をこすった。

「お水、いかがですか?」

と、言いに来た若いウェイトレスが、何かを発見したかのように息を飲み、伸彦を凝視する。

「……先輩、ですよね?」

何先輩といったのか彩華の耳には入ってこなかったが、伸彦は緩やかに頷いた。

この子、テンション高いなーと、彩華は思う。

「帰ってこられたんですか?」

「いや、通りすがり。
でも、ここはいいよね」

「はい☆
また、いつでも寄って下さいね♪」

まさか、大学の後輩ってことはないだろうから、伸彦はこちらの方の出身だったのだろうかと見当をつけた。
ウェイトレスは、彩華の存在なんて見えないかのように、うっとりと伸彦を見つめている。

地元でも有名人なのかー
なんてことを、ぼんやりと考える。

「ついでに、ここで支払ってもいい?」

「もちろんです◇」

うっかりしていたら、レジに行く前に、伸彦は二人分の精算を済ませてしまっていた。