先約の正体は、屋上の隅っこですすり泣く女子生徒だった。
黒く下ろした艶やかな髪に合わず、着用している制服はどこか汚れが目立っている。
少女は依然として宗太の存在に気づくことはない。
―どうする。話しかけるか。
宗太は心の中で葛藤した。
―いや、でも……俺女子とまともに喋ったこと無い上に、相手は蹲って泣いている。そんな相手に、俺如きが軽率に声をかけて大丈夫なのだろうか。
彼の脳味噌レベルで「軽率に」等と言う言葉が出てきたことに、まず宗太はしたり顔をした。少女は背中を向けていてこちらに気づいていないので、幸いにもその気持ち悪い顔は誰にも晒されていない。
ただ冷たくなった風が嘲笑うように宗太の気持ち悪い頬を撫ぜる。

そんな冷たい風も虚しく、彼は通常通りに馬鹿だった。
先程まで「軽率に話しかけていいのか」と考えを巡らせていたことを既に忘れてしまったのだ。
そして宗太は、お飾りと言わんばかりの脳味噌で考えることもなく、手に持っていたカレーパンを少女に向かって突き出した。

「なんで泣いてるのか知らないけど、取り敢えず……」

急な宗太の声に、泣いていた少女は勢いよく宗太の方を振り返った。
驚きのせいか涙が少し引っ込んでいる。



「カレーパン、食おうぜ!」