その長い睫毛から雫が滴り落ちるのを、確かに宗太は目撃した。
少女はそんな宗太の存在に気づくことなく、小さな嗚咽を吐き出しながら涙する。
宗太はそんな光景にただ困惑した。

……俺の、カレーパンの時間が…




宗太は半年通い続けた校舎の隅々までよく知っていた。
幼少期から遊ぶときは必ず近所の探検。土をいじればトンネルや小さな抜け道を作り、よく蟻を使って通らせていた。
宗太は場所や構図に好奇心旺盛な性格だった。故に、高校一年生になった今でも校舎内の探索をしている。
それが起因して、階段が続いておらず屋上の存在しない校舎から、屋上への行き方を知ってしまったのだ。
宗太は地理地形には特化しているものの、頭はあまりよろしくない出来であった。そんな宗太に、誰にも知られていない屋上というものは心躍るものだった。

親友だというクラスの男子にもその場所は教えず、昼休みに屋上で好物のカレーパンを食べるのが彼の日課になっていた。



二学期が訪れ、猛暑は過ぎ去った。そんな10月の紅葉の日、宗太はいつも通りにカレーパンを手にして屋上にきていた。

―だが、そこには先約が居たのだ。