だけどそんな不安もちゃんと封印しなきゃ。


お父さんもお母さんも、そんな私は望んでないから。
いい子でいなきゃ。


親の望む私のままで。


携帯の画面を閉じて床からゆっくりと立ち上がると、
そのままふらふらと一階へと向かう。



リビングのドアノブに手をかけた時、中から美桜の声が聞こえた。


「もうさっきの速報で、私の友達大パニックだよ。
 Ansyalって言うバンドのギターリストが死んだらしくて、
 友達から泣きながら、メールや電話がかかってきてわけわかんないんだけど。

 Ansyal、私にはあわないんだよね」

「はいはいっ。

 美桜もいい加減にしなさい。
 けど若い子が早くに亡くなってしまうのは寂しいわね」


「んで、お姉ちゃんは?」

「先に降りてきてたんだけど、その速報だったかしら?
 さっきのTVを見た直後から部屋に閉じこもってるわ。

 一応、声はかけたから降りてくるとは思うけど……」

「まさか、お姉ちゃんがAnsyal好きとかって有り得ないでしょ?。
 まっ、私には関係ないからいいけど。

 お姉ちゃんなんて居ても居なくても、私には関係ないし。
 ご飯食べたら、また勉強の続きするから。

 お姉ちゃんと一緒に、家族でクリスマスパーティーなんてウンザリ」



お母さんと美桜の会話が部屋のドア越しに聴覚を刺激する。


そんなの聴きたくなかった。

両手で耳を塞いで意識を遮断したいって思うのに、
今から逃げたしたいって思うのに、思うように出来ない。



ふと携帯電話をお守りのように引き寄せる。
背面液晶にランプが点滅して着信を告げる。



着信相手は紗雪。
通話ボタンを押して黙った携帯を耳に押し当てる。



「里桜奈、今速報知ったよ。

 だから私、慌てて私の周囲のTAKAファンに連絡してるところ。
 私のところに、今、総長の貴姫さんから連絡があったの。

 TAKAの入院してた病院びっくりだよ。

 里桜奈がいつも通院してた、神前悧羅大学付属病院だってさ。
 今から皆で黒服来て集合するって。

 里桜奈は来れる?
 って言うか、アンタは絶対に来なさい。
 一人じゃ心配だから。

 私、神前駅で里桜奈のこと待ってるから。
 楓我さんにも連絡して付き添って貰うなら、そっちの方が安心だから
 里桜奈が好きなようにしていいから。

 じゃ、私次の子に連絡するから。

 ちゃんと今すぐに家を出て来るのよ。
 神前駅だからね」


紗雪はそうやって伝えると、慌ただしく電話を切った。

まだ実感が得られないまま私は何かに突き動かされるように、
リビングに入ろうとしてた私は、そのまま二階の自分の部屋へと戻る。

鞄の中に身の回りのものを詰め込むと真っ黒な服に着替えて、
部屋のドアを開けてフラフラと階段を降りた。


リビングでは、楽しそうに会話を弾ませてるお父さんとお母さんと美桜。



「里桜奈?
 早く入ってきなさい」


お母さんの声が中から聞こえたけど私は真っ直ぐに玄関へと向かい、
夜の街へと踏み出した。


私はただ、ふらふらとそんな感情を心の奥底に押し殺して神前駅までの切符を購入して電車に乗りこむ。
鞄の中に突っ込んだMP3プレーヤーからはAnsyalの曲たちが次々と再生される。