予鈴が鳴り響くのを聞き届けると身を潜めていた体育館の床下を這い出して、
取り外しできる網を取り除くと、外に身を出す。
そして、制服の汚れを手で払いながら一気に教室の近くまで走っていく。
教室の外から中を覗くと私の机の上には、花が生けられた花瓶。
……また……。
何も言わずに花瓶を掴むと教壇の隅、
所定位置に戻しに行く。
もうすぐ……私をひっかける足が出てくる。
何時もの出来事に、その足を警戒しながら下を向いて歩く。
ずっと下を向いているから今日は飛び出してこない。
花瓶を戻して机へと戻ると、
椅子の上には大量の画鋲【がびょう】がばら撒かれてる。
……こっちも……。
全ての画鋲を全部、取り除いてまた所定の場所へと戻して机へと戻る。
何度も何度も同じことばかり繰り返せないでよ。
鞄を取り出して一時間目の教科書を取り出す。
宿題のプリントがなくなってる。
慌てて探し出す私を見ながらただ、クラス中が笑ってた。
首謀者のアイツの手には私のプリントが持たれてるから。
目の前で破られたプリントは、
丸められてゴミ箱の中へと捨てられた。
慌ててゴミ箱に駆け寄る私は辺りを気にする余裕もなくて、
ただパニックするだけ。
ゴミ箱にたどり着くまでに足を引っ掛けられて倒れて、
その上から、体を押さえつけられて起き上がることも出来ず、
ただ……足蹴にされる蹴りをやり過ごす。
「をいっ。
もう、福永来るぞ」
教室の外で先生の動きをチェックしてるヤツが声を出すと、
一斉に自分の机へと戻っていく。
解放された体。
痛みを堪えて這うようにして、
ゴミ箱へとたどり着くと破って丸められたプリントを拾い上げる。
教室のドアが開いて福永先生が姿を見せる。
「吉崎さん、何してるの?
早く机に戻りなさい」
キンキンとした耳障りな声がイライラした雰囲気で教室内に響き渡る。
「あっ、アイツドンくさいからに派手にすっころんだんだよ。
なぁ」
首謀者のアイツが言う声が教室内に響き渡り、
同意を求める声を受けて次々と同意の声があがる。
「なぁ、岡崎【おかざき】吉崎助けてやれよ」
アイツの言葉の後、指名された同じく女子の虐めリーダーみたいな岡崎さんが、
優しく手を差し出して私を立ち上がらせる。
「大丈夫だから」
触らないで。
次に続く声は心の中に飲み込んで。
ボロボロのまま机に向かって、
何も意味のないホームルームを過ごして一時間目を乗り越える。
破られて、くしゃくしゃにされたプリントをセロテープで貼り付けて提出する。
綺麗に整えられたプリントの中に、
くしゃくしゃな惨めなプリントが一枚。