調子よく自分の都合で友達論を語り続ける奈知の言葉を、
右から左へと流していく。
傍から見たら、<友達>みたいに見えるじゃない。
だから嫌なのよ。
だから……。
大人や知らない人が居るときには友達面【ともだちづら】。
その人たちが居なくなったら一斉無視。
存在しない人。
だったら……ずっと無視してくれるほうがマシだよ。
「奈知、ほらっ橋、見えてきたよ。
私といない方がいんでしょ。
離れなよ」
「うん。有難う。夜、電話するね」
此処から先は私も戦闘態勢。
スピードを上げて加速していく。
あいつらが居たらまともに……学校に辿りつく保障なんてない。
自転車をこいでる傍から並走されて、
自転車ごと蹴り飛ばされた時もある。
蹴り飛ばされた所に、
車が来て轢かれそうになったのも、
一度や二度じゃないから。
その度に、運転手にちゃんと自転車を運転しなさいって叱られるのは私。
学校に苦情が来たこともある。
蹴り飛ばされた瞬間、誰も見てないの?
私……被害者なんだよ。
心の中で何度も唱える。
でも……それを声に出すことはない。
声は誰にも届かないから。
誰にも届かない声なら最初から期待しないほうが、
がっかりしなくてすむから。
そんな出来事が日々起きる通学時間。
必然的に5分・10分と私が家に出る時間は早くなって、
今では入学当初の時間より45分も早く家を出て通学する。
勿論、学校には一番乗り。
「おはよう。
吉崎」
社会の藤村先生がバスを降りて足を引きずりながら出勤してくる。
「おはようございます」
「吉崎は、いつも早いな」
「この時間に来ないと辿りつかないから」
「辿りつかないって、まだいろいろあるのか?」
藤村先生は学年主任。
ゆったりとした優しい話口調の男の先生。
押し付けることもなく聞き上手って言うか、
話しやすいように、いつの間にか話術にはめられる。
「この時間に来てたら平気だよ。
まだ誰も通学してないから」
「誰も居ないならされようがないな。
先生の知らないところで今も虐めが起きている事実があるなら、
先生は何時でも力になるから言って来なさい。
担任の福永【ふくなが】先生には伝えておくよ」
藤村先生は、そう言い残すと足を引きずりながら、
職員室の方へ消えていった。
自転車を早々に指定の場所にとめて私が向かうのは教室。
誰も居ない教室に鞄だけ置くと、
抜け出して予鈴がなるまで体育館の床下か屋上に身を潜める。
学校で、唯一安心できる場所は立ち入り禁止の屋上か、
誰も入ることがない体育館の床下。
最後は……部室傍の帰宅時にいつも身を潜めるあの角。
生徒たちの声が賑わうようになる校舎。
だけど、そこに私の居場所はない。