ギターを触ってる時間。


まだまだ頼りない音だけど、
ほんの少しAnsyalの感じてる世界に近づけたような感じがして
ドキドキする。


何時か……紗雪や、祐未と一緒にAnsyalの曲を演奏してみたい。


そうやって思わせてくれるAnsyalマジックに今は心を委ねて。



「おっ、C・G・D出来るようになったね。
 そしたら、今度はEm(イーマイナー)。
 かして」


求められるままに、楓我さんにギターを手渡す。


「あれ?
 何も抑えないの?」

「抑えないよ。

 抑えないけど聴いてて。
 多分、知ってる曲のコードになるから」



そう言って楓我さんが演奏を始める。


確かに……懐かしいような、
メロディーが響く


G・D・Em・C・G・D・C・G。


その順番にコードが進行していく。


「あっ、楓我さん。
 それ、ビートルズだ。
 Let It Be」

「あたり。
 この覚えたばかりの4つのコードで有名な曲も少し弾けるんだな」


そう言って楓我さんは笑った。
ふいにノック音が再び聞こえる。



「どうぞ」


楓我さんが声をかけると病室が開いて姿を見せるのは須藤先生。


「直弥、持ってきてくれた?」

「ったく、ほらよっ」


そう言いながら須藤先生がベッドに荷物を置く。



あれ?
ターケースと同じ形してる。




「バイト代貯まるまで、部屋で練習できないのは時間が勿体ないから。
 俺が一番最初に初心者入門セットで購入したギター。

 いいものじゃないけど、使ってていいよ」



そう言われて、楓我さんから私に手渡された今日から暫くの相棒。
受け取った途端に再びノックがされて夕食が運び込まれてくる。


「17時まわってるね。
 里桜奈ちゃんも出掛けないとだね。

 スタジオ練習楽しんでおいで」


楓我さんの声に見送られて須藤先生に一礼すると、
私は預かったばかりの相棒を肩からかけて病院を後にした。


ギターを担いで電車に乗って待ち合わせのスタジオ前に到着すると、
15分前には全員集合。



「あっ、里桜奈。
 重たいの持ってるねー」

「紗雪のは?」

「あぁ、私のは空音が持ってくるからね。
 それより、里桜奈のそれは?」

「今日、楓我さんがさっきかしてくれたの。
 昔買った初心者入門セットなんだって。
 ないよりは、練習できるよねって。

 今日、楓我さんにビートルズのフレーズ教えて貰ったの。
  
 G。D。Em。C。G。D。C。G。
 なんかギターって凄いね」



Ansyalに出逢うまでギターの魅力なんてわかんなかった。
だけど今はAnsyalと出逢って私の時間はキラキラしてるように感じる。