朝は来る。
どれだけ、その存在を拒否しても朝だけはやってくる。
無常な日々を連れて。
目覚ましの音色が部屋内に響く。
ベッドの中でゴソゴソしていたけれど、
朝が消えるはずもなく布団から抜け出して制服に袖を通す。
荷物を持ってリビングへ顔を出す。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「朝御飯は?」
「いらない。
気持ち悪いから。
行ってきます」
食べれるはずのないお弁当を鞄に突っ込んで今日も出掛ける。
納屋【なや】には、
昨日壊された自転車がすでに修理されて立っていた。
……ごめんなさい……。
私が使うから、この子はまた……今日も酷い目にあう。
私なんかの自転車でごめんね。
私と出会わなければ良かったよね。
僅かに自転車に触れて心の中で謝る。
荷台に鞄をくくりつけて準備を整えると、
自転車を納屋から出してこぎ出す。
自転車が動きはじめて朝の冷たい風が、
身を突き刺していく。
自宅を出て五分くらい漕いだ先、
最初の橋に差し掛かる頃、前方に見慣れた自転車が止まってる。
そのまま左折すると、後ろから合流するように話かけてくる。
「おはよう」
左折する私に声をかけたのは、
幼稚園のときから友達だと信じてた奈知【なち】。
奈知的には<私は貴方の友達よ>。
でも私的には……偽りの友達。
だって、そうでしょ。
奈知にとっても学校では私は、
「見えない人」になってしまうから。
「里桜奈、一緒に行こう」
私の後ろを声をかけて追いついてくる奈知。
自転車二台で並んで走るようになるのは
次の橋までの僅かな時間。
次の橋には奈知が本当に学校まで一緒に行く友達が存在するから。
「里桜奈、私、里桜奈の友達だよ。
でも里桜奈と居たら私も狙われちゃうから。
ごめんね。
だけど……こうやって誰も居ないときは仲良くしてたいから。
二人だけの秘密の友達みたいで良くない?」
わけわかんないんだけど。