夏休み。
AnsyalにはFCツアーがあって申し込んだ子達は香港旅行。


だけど海外旅行なんて学生のお小遣いで行けるはずもないし、
申し込んだとしても、未成年には保護者の許可が必要なわけで全く縁がなかった私は、
いつものように寮でAnsyalのサウンドに浸ってた。


ファンクラブ旅行のお留守番組の私たちも今日はドキドキの初日。



裕先生が相棒に出逢ったみたいに、
託実が……TAKAが……相棒に出逢ったみたいに私も相棒に出逢えるのかな?


机の上に広げた音楽雑誌に映るTAKAのシルバーのギターを見つめながら指先で辿る。

シルバーのボディーに細やかな彫刻が施されているギター。

ZEMAITIS【ゼマティス】と、
その写真の下には小さく記されていた。


ふと部屋のチャイムが鳴る。



「里桜奈、私。
 おはよう」



玄関の向こう側、そうやって姿を見せたのは紗雪。
紗雪も私と同じようにバンドの為に寮に居残り組。


「おはよう、紗雪」

「さて、準備も出来てるみたいだし行こっか?」


そう言うと紗雪、また私を新しい世界へと連れ出してくれる。


寮を出て学園近くの最寄駅から地下鉄に乗って15分くらい。

大勢の人が集まる、その駅を降りて地上へと上がると、
そこには裕未さんとAnsyalのライブで何度かお会いしたチームの都葵【つき】さんが居た。


「裕未、都葵おはよう。アイツは?」


そうやって言う紗雪。
まだ待ち合わせメンバーが足りていないみたいだった。



「あぁ、朝日奈【あさひな】は直接顔出すって」

「了解。
 んじゃ、出掛けようか」


そうやって、紗雪が言うと一行はズラズラと商店街の中を歩いていく。

そこで辿り着いたのは商店街のアーケードから、
一本向こうの細い裏道通りにある楽器屋さん。


そこのガラス扉を紗雪は開けた。


「おはようございまーす。
 九鬼です」


受付でそうやって、名前を告げる紗雪。



「おっ、来たな。
 紗雪ちゃん、今日はお友達と一緒か……。

 えぇっと、九鬼紗雪……人数は、他三名っと……」

「あっ、空音【くおん】も来るんだ」

「そうか。アイツも来るのか。
 んじゃ、男一名追加っと。

 4時間だったね。
 今日は少しマケて6000円にしておくよ。

 一人1000円ずつ貰おうかな。
 これから楽器を楽しもうとしてる子たちへの僕からプレゼントだよ。

 弾きたい楽器と出逢えるといいね」


そうやって、言ってくれたお店のおじさんに、
財布の中から1000円を抜き取ってゆっくりと手渡した。


「ねぇ、今日ってさ何処入っていいの?
 ドラム出来ればDWが入ってるところがいんだけど。

 ヤマハとかPearl【パール】とかよりは、
 Ansyalファンとしては憲の好きなメーカーだーって思いながら叩きたいじゃん」