「あっ、ごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい」
自分の頭を手のひらで摩りながら謝罪する。
「ちょっと痛かったかな。
慌てなくていいのに俺がびっくりさせすぎたのかな。
直弥に呼び出されてた」
そう言うと、いつものようにベッドにゴロリと体を預けた。
ベッドの上半身側はいつものように起こされている。
「須藤先生の用事だったんですねー」
「うん。
とりあえず終わったから今は大丈夫だけど、
そっちは裕先生の診察時間は?」
「楓我さんとお話ししたくて早く出てきたので、
まだ30分くらいは大丈夫です」
「そう。
なら、はい飲み物」
そう言うと、冷蔵庫からアイスティーを取り出して手渡してくれる。
「あっ、有難うございます。
柑橘系の香りがします」
「さっぱりして美味しいよ。
それで、俺に話したいことってなんだった?」
話したいこと?
面と向かってそう言われるとなかなか切り出せないわけで。
本当に伝えたいことは、一緒に居たいってことだけど、
それは今日も難しそうだからそうだっ。
あれから……。
「夏休みに紗雪たちとAnsyalのコピバンって言うのやることになったんです」
一気に一息に告げた言葉。
「楽しそうだね。
コピバン。んで里桜奈ちゃんの楽器経験は?」
「そこが問題なんです。
私、鍵盤しか弾いたことなくて……ピアノくらいしか出来なくて」
「あっ、今……くらいって言ったね。
裕先生に怒られちゃうよ。
ピアノを弾ける里桜奈ちゃんも十分に凄いことなんだよ。
んでそのピアノが弾ける里桜奈ちゃんは他の楽器には疎いと……」
楓我さんの鋭い突っ込みの中、頷く。
「だから明日、紗雪たちと一緒に 紗雪の知り合いのお店で楽器触るんです」
「そうなんだ。
懐かしいな……高校時代とかって、やっぱり勢いで楽器触りたくなるのかな?
俺もそうだった……。
入院生活が長くなった病院では触ることも出来ないけどね。
俺もお年玉はたいて買ったギター持ってるんだよね」
「えっ?楓我さん
ギター触れるんですか?」
「ある程度は……」
「また……聴きたいです。
楓我さんの音色」
「あぁ、だったら直弥に言っとくよ。
外出許可貰えそうだったらその時に……」
そうやって言う楓我さんの心の奥の葛藤になんて、
その時の私は気づくことも出来なかった。
「ほらっ、里桜奈ちゃん時間だよ。
診察、遅れちゃう」
「あっ、ホントだ」
そうやって送り出してくれた楓我さんの言葉に、
慌てて病室を飛び出して、いつもの診察ルーム。
裕先生にも楓我さんに話したように、
Ansyalのコピバンを紗雪たちとすることになったって報告して、
明日楽器を触りに行くことを最初に伝える。



