夏休み。
Ansyalのコピーバンドをすることになった私たち。


でも私バンドなんて良くわかってないよ。



勢いで決定したそのコピバンって奴が、
どれほど大変なのかその時の私はまだ知らなかった。


部活動用の生徒の為に夏休みもお盆以外は寮生活が許される私は、
家に部活に入ってるからとまた嘘を重ねた。


『バンドをするから』っとは素直に話すことが出来なかった。


あの日から重ね始めた家に対する嘘は今では、
嘘じゃないような気もして罪悪感も薄くなっていた。


母親も別に詮索するでもなく『たまには帰ってきなさいよ』っと、
一言だけ添えてメールのやり取りは終わった。



夏休み初日の、その日も私は裕先生のセッションがある日で、
朝から寮の自分の部屋を掃除してAnsyalのサウンドを堪能した後、病院へと向かった。

診察時間の前、いつものように楓我さんの病室を訪ねる。


コンコン。


ノックして覗き込むと楓我さんの姿はベッドにはなかった。

ちぇっ、逢いたかったのに。


小さく心の中で文句を言いながらベッドサイドの丸椅子に腰かけて足をぷらぷら。
ギリギリまでここで待って帰ってこなかったら診察に行こう。


このところ、ずっとすれ違ってばかりで逢えないから……そろそろ逢いたいよ。


その笑顔に癒されてその優しさに包まれたいよ。


出逢ってから今日までの間に私の中で、
楓我さんの存在はドンドン大きくなってる。



だから……どんなことも話したい。
私のことを知ってほしい。


楓我さんには、いつもありのままの私を知ってて欲しいんだ。


楓我さんが引き戻してくれたこの世界で、
私がどうやって生きてるかちゃんと見届けて欲しい。


そして……ずっと見守ってほしい。
出来れば一番近くで……。



まだそんなこと伝える勇気はないけど、
何時かは伝えたいって……そう思う自分も少しずつ大きくなってるんだ。
 

時計をチラチラと見ながらイヤホン越しには、
Ansyalのサウンド。



「あっ、里桜奈ちゃん来てたんだね」


ふと顔の真正面。


ゆっくりと顔を近づけて来て私の片耳のイヤホンを外して声をかける。


あっ。
反射的に顔を上げると私の頭は楓我さんの顎に激突。