「声、かけに行こう。
紗雪も裕未さんの心もちゃんと助けないと。
悲鳴を上げて取り返しがつかなくなっちゃったら後が大変だから……」
何も感じることが出来なくなって、
ただ……この命を絶つことだけが幸せに思える悪魔が優しく寄り添ってくるから。
昼休み……私はお弁当を持って立ち上がる。
勇気出さなきゃ。
ちゃんと……自分で歩くの。
深呼吸を何回か繰り返して、
覚悟を決めて井村さんの元へと近づく。
「あの……井村さん……」
思い切って言葉をかける。
彼女は視線も何もあわそうとしないで言葉も交わさない。
怯みそうになる心を必死に立て直して、
もう一度勇気を奮い立たせる。
「よっ、良かったら一緒に……」
そこまで言い続けて言葉が途絶える。
あの頃の私……こんなにも世界を拒絶してた。
こんなにも拒絶してる私に声をかけるのって出来るはずないよ。
ただ声をかけるだけでも、こんなにも大変なのに。
そのまま立ち尽くした私の肩に紗雪がそっと触れる。
紗雪が軽く目を閉じて穏やかに微笑む。
紗雪をゆっくりと見つめなおすと、
ゆっくりと目を伏せて頷いた。
「裕未、そろそろ荷物預けちゃいなよ。
アンタは一人じゃないんだからさ。
そろそろ、気が付きな。
ここは特進じゃないよ。
だけど、ここには特進じゃ経験できない優しさがあるから。
私も、皆も……裕未が心開くの待ってた。
最初に話しかけたの今年に入ってからの私の友達。
里桜奈って言うんだよ。
裕未と仲良くなりたいってさ。
裕未は?」
紗雪の言葉に裕未さんは小さく頷いて、
初めて笑いかけてくれた。
「宜しく」
差し出された手を握り返して「宜しくね」って私も伝える。
掌から伝わるお互いの温もりが凄く優しかった。
大きな勇気から始まる小さな一歩。
怖さを超えて……大きな勇気を育てて踏み出した一歩。
それが紙一重の強さ。
裕先生……宿題の答えはそう思ってもいいですか?