「ごめん。
 裕先生の宿題考えてたら……昔の……孤立してた時間を思い出した……」




ちゃんと自分の気持ち隠さずに紗雪に伝えよう。
井村さんも本当は皆の中に入りたいんだと思う。


あの頃の私がいつも温もりを求めて餓えてたみたいに。


一人だけではどうにも出来なくても、
今の私には紗雪がいるんだよ。


紗雪から広がった沢山の友達もいる。


私が……自分の気持ちを伝えても皆離れていかないよ。
そんな薄っぺらい友達が欲しかったわけじゃない。


誰かを信じるのが怖い。
でも……それって生きている限りは自然なんじゃないかな?


怖いからこそ……次に繋がる優しさが身に染みる。


怖いからこそ、立ち向かわないんじゃなくて怖いからこそ、
信じて前に一歩踏み出さないといけないのかも知れない。



自分の世界を広げるために。
自分の足でちゃんと精一杯立てるように。




「紗雪……私の話聞いてくれる?」

「うん。ちゃんと聞くよ。

 里桜奈と私は違う人間だよ。
 どれだけ里桜奈のことを思っても里桜奈の心まではわからないよ。
 こうなのかなー、あぁなのかなーって想像して動くことは出来てもさ。

 だから……私も話してほしい。

 お互い本音で話し合えるのが、私の望む友達だから」




力強く優しく受け止めようとしてくれる紗雪は、やっぱり優しい。



大丈夫。
紗雪は……紗雪は私を裏切らない。



深呼吸を一つ吐き出して震える心の鍵を無理やりこじ開けていく。



目を背けた……大嫌いな過去と向き合うために。


「あのね……私……ずっと寂しかった。

 幼稚園からずっと苛められてて、
 居場所なんて何処にもなくて。

 その寂しさを埋めたくてずっと……優しくしてくれる人待ってた。
 寂しい時間が長く続くと、世界が狭くなって何かを判断することが出来なくなるの。

 世の中の人、全部が敵に見えて自分を守るのは自分しかいないんだって思える」



そして……心を閉ざすんだ。


それを強さだと勘違いして。





「心を自分から閉ざしてたことすら、
 紗雪の言葉を聞くまで思いもしなかった。

 全部……私が悪かったのに、
 私が閉ざして受け付けてなかったのに、

 自分の否は認められなかった。
 それすら、考えることが出来ないほど判断力がなかったんだ。

 だけど……今、思ったんだ。

 あの時、一人だと思ってたけど友達居たの。

 学校でも、どこでも誰かがいるところでは、
 決して交わることがなかった存在。
 
 だけど……奈知が自分自身を守れる時間だけは、
 精一杯私の時間に寄り添ってくれてた。

 気が付いたの。
 本当は……嬉しかったんだって。

 嬉しいのにその後の悲しみが大きくて、
 心が壊れそうだから批判するしかできなかったの」


そう。
批判するしか出来なかった。