「自分を大切にするってどう言うことだろうね。

 本当に自分を大切にするのは、
 誰かに合わせて流されることなのかな?

 流されても、そこに矛盾は生じているわけだから、
 その場所に長く留まりつづけても苦しいだけじゃないかな?

 自分を大切にしようと思うなら、ちゃんと自分と向き合って大切にしてあげないとね。
 次のセッションまでに考えておいで。

 紙一重の強さ。

 その言葉の持つ意味がわかったら里桜奈ちゃんも、
 もう少し肩の力を抜いて歩けるようになるよ。

 難しく考えなくていいから。

 寮まで送っていくよ。
 学校の寮母さんには口添えしてあげるから」


気が付いたら点呼の時間も過ぎて消灯時間前。

慌てて裕先生の車で寮まで送って貰うと、
寮門の前には紗雪の姿が確認できた。


「こらっ。この不良っ子遅いぞーっ。
 心配させるな」 


車から降りた途端に両側から手が伸びてきて
ほっぺをムギュっとつねった紗雪。


「ごめん……」


裕先生はそんな紗雪と笑う私を見てゆっくりと微笑みかけた。


「もう部屋に行っていいよ。
 お休みなさい」


男子禁制の寮。


門の外から電話をかけて何やら会話した後、
車はゆっくりと走り去った。


「カラオケの時から元気なくて心配したよ。

 お帰り、里桜奈。
 寮母さんに頼んでお風呂入れるようにしてるから、
 一緒に入ろうよ。

 ついでにどっちかの部屋で一緒に寝ちゃおうか。
 布団持ち込んでさ」


井村さんのことは気になるけど、
やっぱり紗雪とも離れたくない。


紗雪は私が初めて出来たお友達だから。

どっちかなんて決められないよ。
どっちも気になるんだもん。


その日、お風呂に入って紗雪の部屋に布団を持ち込んだ私は、
床に敷いて紗雪と一緒に頭を並べて眠った。


紙一重の強さ。

裕先生に出された宿題の意味を必死に考えながら。