やがて、作業が終わったのか須藤先生が後ろを振り返る。
「起きていたのか」
「はい……」
「戻ってきたか」
短い言葉で呟いてデスクの電話を掴むとどこかに連絡する。
須藤先生と二人だって、
意識を始めた途端に緊張してやっぱり発作が怖くなる。
楓我さんのことを聞きたいのに、
思うように声を出すことが出来なかった。
数分後、姿を見せたのは主治医の裕先生。
裕先生が入ると少し場が和んで萎縮していた体がちょっと解放される。
「里桜奈ちゃん、どうしたの?
今日は診察の日じゃなかったよね」
柔らかい微笑みと共に伝えられる言葉。
「はいっ。楓我さんのお見舞いに……」
ただ……苦しくて楓我さんに会いたくなっただけだけど、
お見舞いって言うのも嘘じゃないもん。
必死に自分の中で理由をくっつけて答える。
その言葉の後、須藤先生と裕先生は無言でお互いの顔を見合わせた。
何かを会話するように。
「そう。
楓我くんのお見舞いに来たんだね。
ついておいで。
彼のところに案内するよ」
裕先生に連れられて、
その場所を出ると薄暗い院内を歩いてたどり着いたのは【HCU】と書かれた部屋。
促されるままに消毒とガウンに着替えを済ませて、
その部屋の中に入っていく。
いつもは笑いかけてくれる楓我さんは、
ベッドの上、沢山の機械をつけられて眠ってた。
「楓我くん、今日心臓の手術だったんだよ。
LIVEの後に、オペする約束だったからね。
朝から約10時間。
執刀は、直弥でね。
手術は成功したから安心していいよ」
穏やかな、その言葉は自分のことにいっぱいいっぱいで、
楓我さんの状態に気が付けなかった罪悪感を膨らませていく。
楓我さん自分のことで大変なのに、
ずっと……関わってくれてた。
なのに……私は彼に何も出来ないよ。
今日も助けてもらいたくて勝手に押しかけて。
楓我さんが眠るベッドサイドに近づいて、
ベッドから出ている顔にゆっくりと自分の指先を近づける。
彼に触れた指先から伝わるぬくもり。
言葉もないのに、そのぬくもりは優しく私の中に溶け込んで、
あたたかい涙が頬を伝い落ちた。



