駆け込んだ病室。

そこに、楓我さんの姿はなかった。



いつも飛び込んだら笑いかけてくれた、
その人が居ない静まり返った病室。


窓から外を見つめると外は日が落ちて、
ゆっくりと夜の訪れを告げていく。


人気のない病室に孤独感を感じて、
その場所から飛び出して病院内を必死に駆け回る。



楓我さんの病室から一階のコンビニへ。
買い物してるかも知れない。


わずかな期待を込めて走って行っても、
そこに彼の姿はなくて灯りの落ちた一階ロビーを走りまわる。


コンビニじゃなかったらティータイムかな?



次に向かうのは院内の喫茶店。


楓我さんと行ったことがある彼が行きそうな場所を、
必死に記憶を辿るように追いかける。


それでも……彼の姿は何処にもなかった。



楓我さん……貴方も私が必要なくなったのですか?




ふと浮かびあがった言葉と共に思い出されるのは、
一人だけだった孤独の時間。




彼が居なくなった途端に私、自分で立てない。


前は……ずっと一人だったから諦めてたのに。
こんな弱虫な私なんて大嫌い。


発作が起きそうな恐怖に両腕で自分の体を抱きしめながら、
片隅で声を殺して泣く。



孤独【ひとり】にしないでよ……。


過呼吸気味になってきたのか、
息を吸いたくてもなかなか吸えなくて、
首もとに手を当てて何とかやり過ごしたくなる。




「おいっ」



ため息交じりの不機嫌そうな声。
その人にすがるように腕を伸ばすと意識が途絶えた。


次に目が覚めた場所は真っ白い天井の狭い部屋。

少し硬めのベッドに体を起こして、
キョロキョロと周囲を見つめる。

ゆっくりと立ち上がって光のするほうへと歩いていく。


「起きたか」


デスクにあるパソコンを使って何かの打ち込みをしていたその人が、
作業の手を止めてこちらを振り向く。


「はいっ。
 有難うございました」


その人は……須藤先生。
楓我さんの主治医で一緒に住んでる人。


「そこにでも座ってろ」


指定された椅子にゆっくりと腰を下ろす。
静かな沈黙の時間が流れ、須藤先生の仕事する音だけがやけに大きく響いていた。