「おはよう。楓我に突然連れて来られて戸惑ってる?
 私、今日のスタイリングとメイクを担当する優歩よ。
 宜しく。貴女……名前は?」

チャキチャキっとした口調で自己紹介する優歩さん。

「私は……里桜奈です……」

「ふーん。里桜奈ちゃんって言うんだ。
 それで楓我とはどんな関係?」


どんな関係って……やっぱり楓我さんの恋人なんだ、この人。


「えっと入院してたときに病院で知り合って……」

「そう」


優歩さんは手短に自分がふった話題を終わらせると、
早速用件に入っていく。



「里桜奈ちゃんだったわね。
 Ansyalじゃ、誰が好きなの?」

「えっと……たっ……TAKAさん……」

「TAKAね。了解。
 TAKAファンだったら、パレットの色味もこの辺りが言いわね。
 
 じゃあ髪の毛から触るわね」



そう言うと私の髪の毛をブロック分けにして、
櫛でとかしながら、華やかなポニーテールが完成していく。

鏡の向こうにうつる冴えない私はあっと言う間に、
優歩さんの魔法にかかっていく。


ただのポニーテールだった髪型が、ふんわりと広がる豪華な髪型に。
あっと言う間にピンをサクサクっとさされて完成。



「じゃあ、次。
 メイクねー」


椅子を倒されて軽くフェイスマッサージをされた後、
下地クリームから順番にメイクをのせられていく。


「はいっ。
 目を閉じて……上目にして、次は視線こっちの角度にしてて」


優歩さんに言われるままに視線を動かしたり、
目を開けたり閉じたり。

全てが終わって再び鏡を見た私は鏡の向こうに映る自分にちょっと絶句した。


そこには……私の知らない私が居たから。



「どう?」

「……私じゃないみたいです……」



そう答えるのが精一杯で。
どうみても、鏡の向こうの私は私じゃないんだもん。



「楓我支度できたけど」

優歩さんの言葉に姿を見せた楓我さん。


「楓我さん……どうですか?」


ちょっと照れくさそうに呟く精一杯の言葉。


「いいじゃん。
 里桜奈ちゃんのLIVE武装完了」



まただ……(いいじゃん)って言ってくれた、
楓我さんの言葉にドキドキしてる。


楓我さんがどう思うかがこんなにも気になってる。
……こんなにも……。


「優歩、コイツにあうメイクアイテムチョイスしてよ。
 買ってくから」


楓我さんのそんな言葉に優歩さんは、
ささっと初めての「お化粧道具」たちを準備して目の前に並べた。


目の前で支払われるお金。


「あっ、私が……」


慌てて紡いだ言葉も手だけで制されて、
その後の言葉を続けることが出来ず……楓我さんに買ってもらっちゃった。


それは……やっぱり今の私にはとても嬉しくて。