何も知らずに消えていくと思ってた。
だけど手を伸ばしても手に入れられないと諦めていたことが、
今……起こってる。
誰かに優しくして欲しかった。
誰かに見える私で居たかった。
居ない人にならない私に憧れた。
車はマンションの駐車場を抜けてウィンカーを出して一般道に流れていく。
「里桜奈ちゃんはメイクとかしないの?」
メイク?
お化粧は知ってるけど、やったことなかった。
居ない私には必要のないものだったから。
「やったことないです」
「本当に?
高校生でやったことないのって珍しくない?
今は小学生くらいからしてるんだよねー」
チクリ……言葉が突き刺さった。
「……私には必要のないものだったから」
そう伝えると楓我さんは赤信号で停車になったのをいいことに、
私のほうを向いて伝える。
「今は?」
その声はとても優しくて心地よかった。
チクリと痛んだ心の傷に、優しく染み込んで塞いでくれるように。
今は……
「……今は……気になります……。
でも……やり方なんてわからないから」
目を背けるように小さく呟く。
今時メイクしたことがない。
出来ない子っておかしいのかな?
不安だけは……どれだけ消そうとしても湧き上がってきて。
「OK。そしたら今の時間だったらギリ捕まるかな。
連れて行くよ優歩(ゆある)のところ」
優歩?
聞きなれない名前にやっぱりチクリと心が痛む。
楓我さんの一言一言にいろんな想いを感じる自分。
綺麗な感情だけじゃない。
楓我さんを独占したいって思っちゃう、
そんな私の嫌いな部分もゆっくりと姿を見え隠れさせる。
車は五分ほど走って住宅街の中にある、
小さな一軒家の前にある駐車場に吸い込まれて停車する。
促されるように後ろをついて楓我さんの後をついていく。
「おはよー。優歩コイツ頼める?」
楓我さんには行き慣れたお家なのかチャイムを鳴らして即行ドアを開けて、
そう言った楓我さんの前に姿を見せたのはスラーっと背の高い美人の女の人。
「楓我また突然。誰?隣の子は?」
「ちょっと訳有。
今日の夜Ansyal一緒に行くんだ。
だからコイツ化けさしてくんないかな?って。
俺が頼めるの優歩くらいだし」
優歩さんは仕方ないなーっていう風なため息を一つ吐いて、
私を椅子に座らせた。
美容室。
中学生まではずっと散髪屋だったから、
美容室すらが初体験。



