「おはよう。里桜奈ちゃん」


携帯の目覚ましが鳴り響いた直後、
ドアの向こうで楓我さんの声が聞こえた。


「あっ、はいっ。起きてます」

「朝食出来てるから食べにおいで」


お布団の中から体を起こしてグルリと見渡す。
見慣れない部屋。



殆ど物が置かれてない殺風景にも感じる部屋なのに、
何故か凄く優しい感じがした。


パジャマを脱いで洋服に袖を通すと、
布団を畳んでゆっくりと部屋を後にした。


初めて来た部屋。
見慣れない家。


「こっちこっち」


楓我さんの声がする方へゆっくりと歩いていくと、
そこには……昨日の夜は居なかったこの家の主が、
静かに新聞を読みながら珈琲を飲んでた。


「おっ、おはようございます」


無意識に萎縮してる。


「おはよう。里桜奈ちゃん。
 ほらっ、直弥も挨拶しろよ」


促すようにその人に話しかけるとその人は、
僅かに新聞から目を逸らして「おはよう」と告げた。


「って、直弥愛想悪すぎっ。
 ほらっ、怖がってるよ。里桜奈ちゃん」


口数の少ないその人は楓我さんに動じることもなく、
黙々と新聞を読み珈琲を飲む。


その隣で私も朝御飯にと貰ったマーガリンを塗ったパンと紅茶。


「男所帯だし俺も普段、病院に居るからさ。
 冷蔵庫入ってなくて。
 直弥、料理一切しないから」


そう言って自分のご飯を食べ始める。

朝食の後、後片付けを手伝ってる間に、
楓我さんはその人と何処かの部屋に消えていく。


洗い物が終わってテーブルを拭く頃、
ダイニングに楓我さんが姿を見せる。



なんだろう。
今日だけはこうやってダイニングで家事してるだけでドキドキしてる。


そんなドキドキに今は浸ってたい。



「今日の外出OKだってさ。
 今、直弥から正式に許可貰ったから。

 今からアイツ仮眠するってさ。
 さっ、今から準備して出掛けようか」


その言葉に頷いて部屋に戻って慌てて荷物をまとめる。

紗雪に黒い服か白い服って言われたから、
私の持ってる精一杯の黒い服を持ってきた。

髪の毛も可愛い髪形なんて出来ないけど、
ポニーテールにシュシュを巻きつけて。


「お待たせしました」


まとめた荷物と鞄を持って楓我さんの待つリビングへと向かう。
到着するや重たい荷物をサっと持ってくれて駐車場のほうへと向かう。

昨日と同じ車に荷物を詰めて、
同じように助手席のドアを開けてくれる。


……嘘みたい……。
私……ずっとこんなの無縁だと思ってた。