翌日、母の買い物にお供して地元のショップモールへと出掛ける。


「里桜奈、服買ってあげるから」


そう言われて母の行きたい場所にズルズルと引きづられる私。

買い物の最中も、この場所は気が抜けない。
何時、同級生にあるのかずっとビクビクしながら過ごす時間。


そんな時間は苦痛以外の何者でもない。

私は……生まれ変わりたいの。

知らない場所で、大好きな音楽Ansyalに支えられながら、
もっともっと外の世界を学んで羽ばたきたいの。


だから……昔の孤独に凍てつかせてた、
感情の追いつかない私なんていらない。

そんな私を知る人も、そんな私にした人もいらない。


逢いたくない。
一瞬のうちに、あの時間に戻ってしまいそうだから。


歩きながら、ビクビクしてずっと外ばかりを気にしてる。

その時点で……この感覚は、
私が大嫌いな昔の感覚と同じだから。

無意識に……両手で自分の体をギュッと抱きしめる。



「里桜奈、何してるの?
 お母さん貴女の服選んでるのよ」


ちょっと苛立ちを含んだ母の声に体が一気に強張る。


……こんな時間早くやり過ごさなきゃ……


母の言いなりになるように自分を殺す。



「うん。お母さん、
 それでいいよ。

 お母さんが選んでくれたんだったら」



今の私の好みとは決して言えない洋服。


だけど、その洋服は母にとっては私に着せたいお気に入り。

お眼鏡に適ったもので、
それに文句を言ったらまた機嫌が悪くなる。


楓我さんと裕先生。
三人で買い物に行った時はもっと楽しかったなー。


……なんで……この場所では楽しく感じられないんだろう。

心の中、静かに問いかける。



『この場所に君の居場所なんて存在しないからだよ。
 君は要らない子だから。

 誰にも必要とされない、そこに居ない子だから』



何度も優しく忍び寄るように湧き上がる声に耳を塞ぐ。



どれだけ耳を塞いでも、
その声を遮断することなんて出来ない。





いやっ!!






ここ暫く……聞こえなかったのに。





呼吸がし辛くなるのを感じて、
母に「トイレ」っと小さく告げると一気に女子トイレに駆け込む。



女子トイレ洋式の個室。

飛び込んで鍵をかけると震える手で鞄の中から携帯電話を取り出して、
楓我さんの携帯に電話してた。



……声が聞きたい……助けて欲しくて……。



呼び出し音の後、すぐに電話の向こうから声が聞こえた。


「おはよう、里桜奈ちゃん」

「ふっ……ふう……がっ……さん」


名前を言いたいだけなのに過呼吸状態にすでになってる私には、
名前すらスムーズに伝えられない。


息が思うように出来なくて体がこうばって首を絞めたくなる。


ううん、締めたいんじゃない。

息を吸いたいからこそ、首もとに手を当てる。
そして胸を掻きむしると少しでも息が出来そうな気がして。