『もう、最悪なんだから……」



私の部屋だった場所から友達と電話をしてるらしい、
妹の煩いほどの声が聞こえた。




世界を遮断するように、
殺風景な部屋に入り込む。


部屋交換の時に、片付けられることなく、
ただ放り込まれただけの私の部屋の荷物は無造作で。


視界に移す光景はむなしさ以外の何物でもなくて。
無意識に……楓我さんや紗雪との時間を思い起こす。


辛うじて整えた布団に疲れた身体をバタリと横たえて、
大好きなAnsyalの曲を聴きながら交互に液晶に連絡先を表示させる。


時刻は……日付がまわる頃。
こんな時間に電話かけたら迷惑だよ。



理性が……ボタンを押したい指先をかろうじてとめる。
ボタンに手をかけたまま、気がついたら眠ってた。


朝、目が覚めたときには掌の携帯は枕元。


画面には不在着信の5件。
メール、3通。








電話、どうしたの?
里桜奈。びっくりしたじゃん?

GW、退屈だよね。
なんで、寮あけてくれないのかな?

なんか、あった?
でも里桜奈からの電話嬉しかったよ。

なんかあったら、
遠慮なく私にも話してよ。


5日、会えるの楽しみにしてる。


チームと総長さんにも伝えたから。




紗雪








私……電話しちゃったんだ。
慌てて発信履歴を確認すると1時前に発信してた。









ごめん。
紗雪、昨日は電話で起こさなかった?

自宅あんまり居心地良くなくてさ。
声聞きたくなったの。

でも夜遅すぎるし。

電話しないつもりだったのに、
寝てる間に電話しちゃったみたい。


ホント、ごめん。


里桜奈






メールを送信して暫く。
今度は携帯が着信を告げる。


「もしもし」

「おはよう、里桜奈。
 昨日、どしたんだろうって心配してた。

 家居づらいんだ。
 
 私の家、呼べればいいけど私も今、事情があって家いないんだよね。
 家族旅行ってヤツ。

 めんどくさいんだけど。
 彼氏は?」

「彼氏?」

「そうそう。楓我さんって人。
 彼氏のこと家族にオフレコなら私のとこ来てることにしてもいいし」


紗雪の突然の言葉に絶句する。
 

「ほらっ、やっぱり友達が困ってるときは力になりたいじゃん」


……友達……。

紗雪が紡いだ『友達』の言葉はまた心が少し温かくなった。



「あっ、ごめん。
 従姉妹が呼んでる。

 彼氏に連絡ついて口添え必要になったら、
 遠慮なく連絡して。

 私、里桜奈の親とも話しつけてあげるから。

 ごめん。切るねー」



5月3日の朝。
友達をもっと知りたいと思えた。


……友達って何だろう……。

 

その答えは案外近くに転がってるのかも知れない。