「はっ、初めまして。吉崎里桜奈です」
戸惑いながら精一杯の挨拶。
「里桜奈さん覚えましたわ。
やっぱり貴女でしたのね」
その言葉にキョトンとする。
「ほらっ、貴女のお部屋からAnsyalの曲」
ガチガチになっていた私の体が、
Ansyalと紡がれた言葉に反応して魔法にでもかかったかのように緊張をほぐしていく。
「私もAnsyal大好きなんですの。
私は十夜ファンよ。貴女は?」
貴女は?
その言葉にメンバーを全員思い出す。
「メンバー全員好きです。
でも誰か一人って言われたら、Takaさんかなーって」
「ふふっ。Takaファンも多いよね。
良かったらAnsyalの話でもしながら、
少し同じ時間を楽しみません?」
その言葉に、すっかりと警戒も溶けてしまって紗雪を自分の部屋へとあげる。
楓我さんから入学祝にプレゼントして貰ったティーカップに、
裕先生から頂いた紅茶を注ぎ込んでテーブルへと運んでいく。
「私も持ってるわよ。
このポスター」
そう言う紗雪に思わず私もテンションがあがる。
「生まれて初めて購入したCDについてた特典なの」
そう。
あの日……病室でAnsyalに出会ってなかったら、
私、今どうしてたかわからない。
今もずっと……消えたいって自分の世界に閉じこもってた。
この場所にいることもなかっただろうし、
こうやって紗雪ちゃんと出逢うこともなかったかもしれない。
「ファンクラブは入ってる?」
ファンクラブ?
「里桜奈ちゃん携帯かして」
言われるままにこの春、契約したばかりの真新しい携帯電話を手渡す。
「もしかして、初めての携帯?」
その声に小さく頷く。
「契約情報とか知ってる?」
首を横にふった私に紗雪ちゃんは手馴れた手つきで次々と設定していく。
通信料をこれ以上高くしないための契約とか、
いまだ何も設定されていないメールアドレスの手続きとか。



