季節はめぐり今日から高校生。
虐められた場所には長く居たくなくて、
進路を理由に遠い学校を選んだ。
私を知らない場所で思いっきり過ごしてみたいと思ったから。
Ansyalはとても優しいけど、
私を囲む空間は今もあまり変わらない。
家族は相変わらず、学校も相変わらず。
どれだけ自分が前に進みたいって思っても、
私を囲む周囲が、それを望んでくれないと自由になれないから。
そんな時間を遮断したくて思い切って遠くの学校を選んだ。
私立の高校。
一貫教育の学校だから私みたいなのは中途入学になっちゃうんだけど、
何とか滑り込めて入学を許された。
自宅から片道通学2時間。
毎日の通学は大変なので私は寮生活を選んだ。
入学したのは聖フローシア学院高等部。
入学式の前日、寮に一人暮らしの為の荷物を持って入寮手続き。
父と母には「もっと近い学校に」なんて言われた時期もあったけど生まれて初めて押し切った。
ここで暮らすほうが病院も近いから。
理解の得られない家族の下で通院を続けることにも苦痛があったし、
何よりも距離を起きたかった。
家族との時間も私にとって優しい場所ではなかったから。
文句を言いながらも二時間の道程を移動して、
入学式に顔を出してくれた母も夕方には帰っていった。
初めての一人部屋。
初めての寮生活。
新しい高校生活。
入寮の時に一緒に持ち運んできたコンポで、
大好きなAnsyalの音楽を流す。
自宅で飾って居た時と同じように、
Ansyalグッズで部屋の中をいっぱいに満たす。
制服をクローゼットにかけて私服に着替えて床に座り込んで、
Ansyalを聴いていると、ふいにチャイムが鳴り響く。
ビクっとなって硬直する体。
やっぱり……長い時間の反射反応はすぐにはなおらないけど、
今日からは私しかいない。
深呼吸をしてドアの方へと向かっていく。
「はいっ」
「ごきげんよう。
私、隣室の九鬼紗雪【くき さゆき】です。
よろしくて?」
モニターカメラが映し出す女の子。
深呼吸して慌ててドアを開ける。