私だって好きで世界から遮断されてるわけじゃない。

他の人が私のことが見えないだけだから。


求められれば……見ようと思ってくれる人がいるなら、
(ここにいるよ)ってちゃんと伝えたいと思う。


寂しい気持ちにいっぱいいっぱい、
埋もれてしまっていた忘れようと思ってた光の心。



「……うん……」



精一杯の声で小さく呟く。



「カーテン開けていい?」

「うん……」


暫くして……ゆっくりとカーテンが開けられて、その人が姿を見せる。



男の人……高校生?大学生?

私より年上っぽい男の人が、
こっちを見つめてベッドに上体を起こして座ってた。



「名前は?」

「吉崎……吉崎里桜奈」


小さく呟く。

「そっか。里桜奈ちゃんって言うんだ。

 俺は楓我。奥村楓我【おくむら ふうが】。
 宜しくな」


その人はベッドからゆっくりと降りて、
私のほうに近づいてきてから名前を名乗った。



「触れていい?」



突然の言葉に戸惑いながらも小さく頷く。



誰かとのコミュニケーションなんて久しぶりだから。
もう少しこの時間に浸っていたかったから。



その人の手は、ゆっくりと髪に触れ塗れた頬の雫を辿るようにゆっくりと動いた。



……温かい……。
その温もりはとても優しくて、温かくて、くすぐったくて。



「泣いてたの?」

「なんか涙が零れたの」


そう言いながら、また涙腺が緩んで頬を伝い落ちる。
その涙をゆっくりと指先で受け止めながら言葉を続ける。


「この涙も、さっきと一緒?」


ゆっくりと首を左右に振る。
さっきは……寂しくて消えたくて泣いた涙。



今は……


「今は温かいから……」

「そう。なら良かった」



楓我さんはそう言って笑った。



「俺が好きなアーティストで(君の涙をたべちゃお)って歌詞があってさ。
 なんか……知りたくなった。

 涙の意味【わけ】……話す気ある?」



その人は笑いながらゆっくりと言葉を続ける。






涙を食べちゃおってどんな歌詞なの?。

涙なんて食べても、しょっぱいだけじゃん。






でも……その人と会話を続ければ続けるほど涙は止まらなくなって。
洪水となった涙は口の中へと少しずつ流れ込んじゃう。



その涙はしょっぱいけど……ちょっぴり甘かった。





あれ?
何?





楓我さんの声しか聞こえないと思ってた。


微かに聞こえていただけだった楓我さんの声は、
いつの間にか強くしっかりと届くようになってて今では何だろう。


別の音も微かに聞こえてる。