死ねなかった……。




勇気を出して踏み出したのに、
私なんて自由に死ぬことすら許してもらえないんだ。



これで全部終わると思ったのに。



その場で崩れ落ちた私に暖かい手が降り注ぐ。



「おいっ、何してるんだ。
 お前は……」


立ち尽くした私の肩に手を添えて、
道路脇へと歩かせる存在……目の前に居るのはお父さん……。



ただ……何も伝えられず涙を流した。



その場で父は私を連れて学校へと戻った。


校長先生が父の恩師だと言うことをいいことに、
校長を呼び出した。



集められた学年の先生たち。



校長、教頭、事務長、学年主任、担任。
ただ黙って手を引かれて校長室に連れ込まれた私。


そして父の手に寄って、
先生たちの目に晒された私の相棒の自転車。


籠カバーには消えない文字はそのままに。
それらを突きつけたまま父は静かに告げた。





「娘が死のうとしたんです。
 私の車の前に飛び出して。

 学校は何をしてるんですか?」




普段、表情を何一つ見せない父が人前で初めて涙を見せた瞬間。



父は言うべきことを伝えるといつものように壊れた自転車をトランクに黙って乗せて、
私を助手席に乗せるとゆっくりと車を走らせた。





「毎日毎日誰だ?お前にそんなことするやつ。

 ドラム缶につめて海に沈めてやりたい」



シーンと静まり返った車内、父が小さく呟いた。




思いつめた表情で。

その表情を見たとき……まだ罪悪感が生まれた。
 


私が虐められるから。
私が悪いから……お父さんに、こんな顔をさせるんだって。




自宅の駐車場に滑り込んだ車。



車を降りて玄関から自分の部屋へと戻っていく中、
トイレですすり泣く母の声が聞こえた。





……どうして、うちの里桜奈が、
そんなめにばかりあうの?……





何度も何度も、
そればかり呟きながらトイレですすり泣く声は続く。




また罪悪感が増えた。





『君がいるからお父さんもお母さんも悲しんでばかりだよ。

 君の存在なんて誰も望んでないんだよ。
 かわいそうだね。

 君なんかがいるからお父さんもお母さんもあぁやって、
 経験せずにすむことばかりさせられる。

 すべては君が悪いんだよ。

 君と言う存在が、そこにいるから全ては起きてるんだよ』





悪魔の囁きが張り巡らされた蜘蛛の巣に、
絡みとられた私は身動きの取れないまま罪悪感に縛りつけられる。




私が居なかったら、美桜も……バカにされない。


私が居なかったらお父さんが泣くことも、
お母さんが泣くこともない。


家族を追い詰める私の存在なんて、もういらないよ。