ビルの屋上?



その後に続いた朝日奈さんの言葉は、私の悪い予感通りだった。


紗雪たちの説得も届かず、雪奈さんはビルの屋上から体を躍らせた。
それが一月三日の夜中。


そして……一夜過ぎた今日、警察の取り調べや、
もろもろから解放された紗雪は私に電話をかけてきてくれて倒れた。



そう言うことだった……。



「里桜奈ちゃん、紗雪のことは心配しなくていいよ。
 兄貴に任せとけばいい。

 それより……雪奈さんのお葬式はどうする?」



お葬式……。
そんなのすぐに思いつけるほど、思考が働いていない。



「雪奈さん……今日はまだ警察で明日、帰ってくる予定みたい。
 ただ……身寄りないんだよ。
 雪奈さん……、天子さんが小さくても細やかでも送りだしたいって
 お寺の人と交渉して、お葬式はして貰えることになったんだ。

 だから……もし来れるなら、顔出してほしいんだけど。
 俺が、そっちまで迎えに行くから。

 この間、免許取ったばっかだけど……教習所ではずっと教官に褒められてた。
 だから腕は心配しなくていいよ」



そう言って朝日奈さんは、私に紗雪と連絡がとれなかった時間のことを教えてくれた。





「えっと……お母さんに聞いてみなきゃ、わかんない」

「そうだよな。
 でも……俺、迎えに行くよ。
 里桜奈ちゃんには、紗雪の傍に居て欲しいから。

 幾ら、兄貴がついてるって言っても……
 紗雪のショックもデカいと思うからさ」



そう言うと、私の返事を待たずして電話は切れた。





迎えに来るって言われても……。



それに対して、どういう反応をしたらいいのかなんて正直わかんない。


楓我さんの時は、ドキドキした。
だけど……朝日奈さんの時は……。



だけど朝日奈さんのことは、嫌いじゃない……。

朝日奈さんは仲間だから……。
いやっ、それも、なんか変か……。



私の心なのに、私がわかんないよ……。




溜息を吐き出して、私は再びお母さんの待つリビングへと向かった。




「お母さん、ゴメン。
 私、今日家を出るね。

 またお友達が亡くなったの」



「えぇえ、また?」



そう言って返事を返すお母さんのトーンが、
攻撃的なように聞こえて、体が震えだす。



「ごめん……。

 Ansyalで繋がった友達なの。
 私の大切な友達なの……だから……」



小さく絞り出すように告げた言葉に、
『またAnsyalなのね……』っとお母さんは小さく声を紡いだ。




「本当に、どうして里桜奈がせっかく出来た友達なのに、
 皆、命を軽んじるのかしらね……。

 Ansyalのファンが後追いしてるって言うニュースは、
 連日騒がしているから、お母さんも知ってるわ。

 だけど……どうして、里桜奈がこんな辛い目にあうの?
 どうして、そんな子とお友達になったの?」




お母さんの言葉は……私を心配しての言葉のはずなのに、
今の私にもどれもナイフとして突き刺さってくるばかりだった。