愛しい人

どうにか逃れようと体を捩ってみると、純正はさらに腕の力を込めた。

「忘れるなんていわないでくれ。初めてあった日から君に惹かれてた」

 自分の耳を疑った。

「――……え? いま、なんて……」

「好きだよ、花名。俺はもう、自分の気持ちに嘘をつかない」

 純正はそういうと、抱きしめていた手を解いた。ようやく解放されると思った矢先、花名の体は宙に浮いた。

「あ、あの先生⁉」

 いきなり抱き上げられてしまった花名は、驚きの中にいた。

「おろしてください。いきなりこんな……」

「大丈夫だよ。落としたりしないから」

 いいながら純正は寝室へ歩いていく。そしてベッドの上に花名をそっと寝かせ腰のあたりにまたがった。

「花名。君のことをもっと知りたい」

 下から見上げる純正の顔はいつもと変わらず美しかったけれど、どこか余裕のなさを漂わせている。

「いやならそう言ってくれていいんだよ」

「……いやじゃありません。でも私、こういうことしたことがなくて……上手にできなかったらすみません」

 花名がそういうと、純正は驚いたように目を見開いた。

「経験がない?」

 純正が驚くのも無理はない。処女のくせに、いきなり抱いてほしいと迫ったのだから。

「私の事、軽蔑しますか?」

「いや、そんなこと思わないよ。経験がないのにあの決断するには勇気がいったろ。そこまで思い詰めていたことに気づいてやれなくて、ごめんな」

「ごめん」と呟いた純正に花名は抱き絞められた。

体の重みで身動きが取れないのに、なぜか守られているような気がして安心できる。そしてとても愛おしいと思った。

「先生。好きです」

「俺も好きだよ、花名。君のことがとても愛おしい」