愛しい人

 カフェで樹と別れるとその足で花名は母親の見舞いに行った。純正がいつも回診に来る時間は午前中なので病室で顔を合わせることはないだろうと思った。

一時間ほど母と過ごし、純正のマンションへと向かった。

カーテンが引かれた薄暗い部屋。寝室に入ると純正の匂いがした。

柔軟剤とシャンプーが混じりあった清潔感のある優しい香りだ。きっと彼に抱きしめられたらこんな感じだろう。

ベッドのシーツをはがし、新しいものと交換する。洗濯機を回し、窓を開け空気を入れ替えて、部屋の掃除を済ませる。

乾燥機が回っている間に、夕食のおかずを三品作り、タッパーに入れて冷蔵庫にしまった。それから風呂を洗い、湯張りのタイマーを二十一時にセットする。それから乾いた洗濯物をたたんで、クローゼットの引き出しに入れた。

気が付けばすでに日が落ちている。まだ純正は帰宅しないだろう。しかし、長居は無用だ。花名は玄関にカギをかけると逃げるように部屋を出た。