「お前はいつもそうだ。俺の大切なものを奪って壊して、もううんざりなんだよ」
「おいおいおいおい、人聞きの悪いこと言わないでくれる? 僕がいつそんなことした?」
「茉莉花のことだってそうだ」
純正がその名前を口にしたことで、その場の空気は一変した。晴紀は小さく舌打ちすると、純正から目をそらす。
「……あれはただの事故だ。僕には関係ない」
「関係ないわけないだろ!」
「黙れ!それ以上言ったら、親父に言うからな。この病院をクビになるだけでは済まないだろうな」
純正は口を噤むしかなかった。
晴紀の父親は誰もが見放した母親の治療に手を差し伸べてくれた恩人であり、純正の医者としての成長を誰よりもサポートしてくれた医療界の重鎮。そんな深山修二には誰も逆らえない。
おそらく医者として生きていくならば一生、背負っていかなければならない十字架になってしまったのだと思った。
「なあ純正」
「……なんだ」
「僕になにか言うことないの?」
「当直中にいきなり来て悪かった」
「それだけ?」
「だから悪かったって、言ってるだろ」
「それが人に謝る態度なわけ? 信じられないよ。ほんと乱暴。まあいいよ。もう出てって。明日も仕事なんだ。分かるだろう」
晴紀は大きなあくびをして、ベッドに腰を下ろした。
「ああ、わかったよ」
純正は当直室を出た。ナースステーションからは、看護師たちの話声が聞こえる。
病棟が落ち着いている証拠だ。純正はホッと胸をなでおろす。
もし、自分の担当する患者になにかあれば、いつでも電話してきていいと言ってある。晴紀では役に立たないから。
口には出さないが、医者はもちろん一部の看護師たちも気づいている。
彼自身も。いや、彼が一番わかっているはずだ。だから、深山修二の興味は純正にあることにも気づいている。晴紀が純正に辛く当たるのは、嫉妬からくるものだ。
深山修二の息子という十字架を、晴紀も背負っているのだ。
そんな晴紀の苦しみを知っているからこそ、純正は強く出られない部分もある。彼になにかを譲るたび、そのプライドを傷つけていることもわかっている。
「おいおいおいおい、人聞きの悪いこと言わないでくれる? 僕がいつそんなことした?」
「茉莉花のことだってそうだ」
純正がその名前を口にしたことで、その場の空気は一変した。晴紀は小さく舌打ちすると、純正から目をそらす。
「……あれはただの事故だ。僕には関係ない」
「関係ないわけないだろ!」
「黙れ!それ以上言ったら、親父に言うからな。この病院をクビになるだけでは済まないだろうな」
純正は口を噤むしかなかった。
晴紀の父親は誰もが見放した母親の治療に手を差し伸べてくれた恩人であり、純正の医者としての成長を誰よりもサポートしてくれた医療界の重鎮。そんな深山修二には誰も逆らえない。
おそらく医者として生きていくならば一生、背負っていかなければならない十字架になってしまったのだと思った。
「なあ純正」
「……なんだ」
「僕になにか言うことないの?」
「当直中にいきなり来て悪かった」
「それだけ?」
「だから悪かったって、言ってるだろ」
「それが人に謝る態度なわけ? 信じられないよ。ほんと乱暴。まあいいよ。もう出てって。明日も仕事なんだ。分かるだろう」
晴紀は大きなあくびをして、ベッドに腰を下ろした。
「ああ、わかったよ」
純正は当直室を出た。ナースステーションからは、看護師たちの話声が聞こえる。
病棟が落ち着いている証拠だ。純正はホッと胸をなでおろす。
もし、自分の担当する患者になにかあれば、いつでも電話してきていいと言ってある。晴紀では役に立たないから。
口には出さないが、医者はもちろん一部の看護師たちも気づいている。
彼自身も。いや、彼が一番わかっているはずだ。だから、深山修二の興味は純正にあることにも気づいている。晴紀が純正に辛く当たるのは、嫉妬からくるものだ。
深山修二の息子という十字架を、晴紀も背負っているのだ。
そんな晴紀の苦しみを知っているからこそ、純正は強く出られない部分もある。彼になにかを譲るたび、そのプライドを傷つけていることもわかっている。


