愛しい人

「……ありがとう。でも、君の想いは受け入れられない」

純正は険しい顔のままソファーから立ち上がった。そして花名のはだけたブラウスをそっと整える。

「もっと賢い人だと思っていたけど、違ったのかな」

まるで突き放すようにそう言われて、花名の胸は張り裂けそうに傷んだ。純正のためにと決死の覚悟で行動に移したのに、彼を失望させてしまったなんて。

緊張で汗をかいていたせいか、喉はカラカラに乾いている。声帯が痛いぐらいにひしゃげて、謝罪の言葉すら出てこない。  

「家まで送るよ」

 純正はそう言ったが、これ以上、迷惑はかけられない。そう思い必死に声を絞り出す。

「……ひとりで、帰れます」

 はだけたブラウスの胸元を掻き合わせると、まるで逃げるように純正のマンションを飛び出した。