純正が治療費を支払う代わりに家政婦のようなポジションで自分を雇ってくれているのだということ。
毎日彼の身の回りの世話をしてはいるが、本当にこれだけでいいはずがないと思っているということ。
そして純正が何をしたら喜ぶのか教えて欲しいと。
きっと学生時代からの友達である晴紀なら、正解に近い答えをくれるはずだ。そういう思いで送信した。
返事はすぐに来た。喜び勇んでメールを開く。しかしそこには花名を悩ませるようなことが書かれていた。
「……やっぱりそうだよね。先生だってそう思ってるよね」
今までそういうことを考えなかったわけではなかった。自分だってもういい大人だ。だからと言って、実行に移すのには勇気がいる。晴紀に相談メールを送ろうと思ったその時、インターフォンが鳴った。
純正が帰宅したのだ。スマホをカウンターに伏せ置いて、急いで玄関に向かう。
「お帰りなさい」
「遅くなって悪かった。思った以上にオペが長引いてしまって、連絡もせずに申し訳い」
「いえ、いいんです。お仕事お疲れさまでした。食事もお風呂もご用意はできていますよ。どちらになさいますか?」
廊下を歩きながら、花名は純正にそう問いかける。
「ありがとう。とにかく帰っていいよ。今日はもう遅い」
「でも。片づけをしないといけませんし」
「いいよ。それくらい俺がやる」
「だめです。それじゃあ、私のいる意味がありません」
「十分意味があるよ」
「あの先生。もっと私にできることはありませんか?」
「本当に今日はもう大丈夫だから……」
「そんなはずありません。私の料理に、掃除に、洗濯に、何百万もの価値があるとは思えないんです」
「そんなことないさ。君が家事をしてくれて、すごく助かってるんだよ」
「嘘つかないでください!」
「……嘘はついていないよ」
小さくため息をはくと、純正はソファーに身を沈めた。
相当疲れているのが伝わってくるが、花名は止められなかった。
「私だって本当は家事だけじゃ足りないってわかってます。だって、男の人って、もっと他のものを求めてるんですよね? どうぞ私のことを好きにしてください」


