愛しい人

「ごめんなさい!大丈夫ですか?」

いいながら相手の方を見ると、白衣を着た男性だった。

純正と同じ色のスクラブを着ているところを見ると、医者なのだろう。

「いえ、こちらこそ。お怪我はありませんか?」

 乱れた前髪を右手でなでつけ、ニコリと微笑んだ。その表情を見て、花名はほっとする。

「よかった。私は平気です」

 何気なく床に視線を落とすと男性のものであろうスマホが落ちていて、画面が割れてしまっていた。

「大変!」

「ああ。大丈夫ですよ」

 平然といいながら男性はかがんでそれを拾い上げる。

「大丈夫じゃないですよ。ちゃんと動きますか?」

 小さな傷程度なら花名もそう言うと思う。けれど、かなり派手にひびが入っている。

「動きますよ。少し見にくいけど」

 確かに起動はしているようだった。しかし、このままの状態で使い続けるわけにはいかないだろう。

「修理代、お支払いさせてください。私はこの部屋に入院している小石川雅恵の娘です」

「小石川さんの娘さんでしたか。僕は外科の深山といいます」

 花名は彼のネームプレートを見た。すると、深山晴紀と書いてある。医院長と同じ苗字であることが気になって、花名はつい聞いてしまった。

「深山先生ってもしかして、院長先生の……」