純正からの提案を承諾した翌日、花名は治療の同意書にサインをした。
数日後には母親の深山記念病院への転院が済み、治療を受けるために必要な検査結果が出そろった今日、待ちに待った治療が始まった。花名は仕事終わりに母親の病室へ顔を出した。
投薬直後に出る可能性があるという拒絶反応は起きなかったが、これから徐々に起こる副反応には注意していかなければならないという。
不安げな母親の傍にいてやりたかったが、「また明日くるから」と後ろ髪引かれる思いで純正のマンションにやってきた。
部屋の掃除をし、頼まれていたスーツをクリーニングに出し、夕食を作り風呂を沸かした。すべておやり終えて、花名はため息を吐いた。
「本当にこれでいいのかしら」
家事をさせるなら、プロの業者のほうがいいに決まっている。何百万円もの価値が自分のやっていることにあるとは到底思えない。
でもだからと言って、これ以上何ができるのかもわからなかった。
二十時過ぎにインターフォンが鳴った。花名は玄関にかけて行き緊張しながらもドアを開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい。今日もお仕事お疲れ様でした」
ぎこちなくカバンを受けとり食事か風呂かの確認をすると純正は「先に風呂にするよ」といった。
「タオルは、出してあります。一応、部屋着も……」
「ありがとう。助かるよ」
風呂に入っていったのを見送って、下準備しておいたメインの料理に火を入れる。
(焼き上がりのタイミングが合えばいいんだけど……)


