愛しい人

「それ、なんの話? ……なんて、誤魔化すには証拠が多すぎたか。そう、君のお母さんに直接会ってあの治療を勧めたのは俺だよ」

そう言って純正は観念したかのように笑った。

笑いながら「名推理だ」と花名を褒めたがちっともうれしくはなかった。花名は怪訝そうな顔で純正を睨む。

「笑ごとじゃありません。どうしてこんなことをしたんですか?」

「どうして、か。それを聞いてどうする? 理由によっては治療を諦めるとでもいうのか」

母の命が助かる方法がこれしかないのだとすれば、何としてでも受けたいに決まっている。花名は首を横に振った。

それを見た純正は諭す様にいう。

「だったら君は、なにも気付かなかったふりをして、そのまま書類にサインをすればいいんだよ」

「でもできません」

「どうして?」

「できないんです。ただ、なにもせずに先生の善意に甘えることが私にはできないんです」

 いいながら花名は泣いていた。

自分でもどうしていいのかがわからなかった。

治療は受けたい、でも受けられない。そんな花名に純正は言った。

「それならひとつ提案してもいいかな?」