「これ、使って」
手渡されたブランケットは、カシミヤのようで手触りがいい。花名はそれを胸元まで引き上げるようにして膝に掛けた。
純正はテーポットからカップに紅茶を注ぎはじめた。その途端、ベルガモットが弾けるように香る。
アールグレイだと花名は思った。母親の好きな紅茶の種類だったので、すぐにわかった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
両手でカップを受け取ると、湯気と共に立ち上る香りをかいだ。
「とてもいい香り」
「気に入ってくれてよかった」
純正はホッとした様に微笑む。そんな彼の顔を見つめて花名は言った。
「アールグレイは母が好きなんです。……母は、先生にとても感謝していました」
純正はきれいなその顔をこわばらせる。
しかし次の瞬間にはまるでなんでもなかったかのように花名を真っ直ぐに見た。


