「お疲れ様です、マネージャー」
「そう言えばお母さんの具合どう?」
樹は売り上げ伝票を確認しながら花名に問いかける。
「お気遣いありがとうございます。お陰様でだいぶいいです。先生からは週明けの検査の結果が良ければ退院してもいいって言っていただけました」
「そっか、よかった。じゃあこれ、お母さんに」
樹は上着の内ポケットから出された包みを見て、花名は恐縮した。
「……そんな、受け取れません。お気持ちだけで十分です」
「いいから、ほんの気持ちだから」
以前母親が入院した際にも樹は同じことをしてくれた。赤い水引が印刷されたそれには、結構な金額が入っていて受け取ったことを後悔したほどだ。
「ですが、母は入退院を繰り返していますし、毎回いただくわけにはいきません」
丁重に断る花名に樹はその態度を崩さない。
「いいから。素直に受け取るのがマナーだと思わない?」
樹は軽く片目を瞑ると花名のエプロンのポケットに差し入れる。
「マネージャー!」
「ほら、怒ると可愛い顔が台無しだよ。じゃあ、僕はそろそろ行くよ」
樹はくるりと踵を返すと、ひらひらと手を振って店を出て行ってしまった。
花名は樹から渡された包みをそっと開けてみる。中には一万円札が五枚も入っている。
「……またこんなに。どうしよう」
花名は困ってしまった。どうにかしてか返したかったが、樹のあの様子では受け取ってはもらえないだろう。
「仕方ない。お母さんに相談しよう」
そもそもこの見舞金は自分にではなく、母親にあてたものだ。だから受け取るかどうかは母親に決めてもらうことにしよう。
花名はそう考えて、包みをバックの奥にしまった。


