愛しい人

「……すみません。こちらにも諸事情がありまして、これから話すことも出来れば聞かなかったことにしていただけるとありがたい」

「内容によります」

「そうですか、いやあ、参ったな」

相当話し難い内容なのか、誰かに口止めされているのか、おそらくその両方なのか。

大津は額に汗を滲ませいた。それを見た花名は大津の言う諸事情を汲んでやりたい気持ちが芽生えないわけではなかった。

しかしだからといって追及の手を休めるわけにはいかない。母親の命がかかっているのだ。花名は仏心を捨てて大津に詰め寄った。

「それで、母の治療のことですが、あれは深山記念で聞いたものと同じですよね?」

「はい、そうです」

「費用が掛からないということですが、そんなことがあるんですか?」

 数百万の治療費がゼロになるなんてありえない話だ。

「それは、その、なんと申しますか、“ある人の善意”ということでご理解いただけると僕としてはとても助かります」

「結城先生の善意」

「……はい。あ……」

 大津は「しまった」といいながら口元に手をやった。