愛しい人

(どうしてこれがお母さんのところにあるの?)

花名は手にした書類にもう一度目をやった。見間違いなどではない。

これは花名が純正から渡された日本未承認薬を使用するための同意書と同じものだ。

「これ、受けるの?」

「ええそうよ」

「治療費の話はされた?」

「いいえ。でも、たしか負担は増えないって言ってたかしら」

「負担がない? その先生ってどんな人だった?」

「とても素敵な方だったわよ」

「それじゃわからない」

 そう花名に言われて、母親は「そうよね」と肩を竦める。

「ごめんね、花ちゃん。私もよくわからないのよ。だって、先生ってば治療のこと以外は何も話してくれなかったから」

「……そう」

 母親の説明では確信を持っことは出来なかったけれど、花名の脳裏にはある人物が浮かんでいた。

「ねえ、お母さん。今日って、大津先生伊いらっしゃるかしら?」

「どうかしらね、いらっしゃると思うけど」

「私、ちょっと行ってくる」

 花名はその書類を手に病室を出ると、ナースステーションに向かった。