愛しい人




セカンドオピニオン外来に足を運んだその日から、花名は仕事を探し始めた。

大金を手にする方法はいくつか思いついたがどれも現実的ではなく、今の自分にできることはコツコツと働くこと以外なさそうだった。

しかし、花屋とビル清掃の仕事で手一杯の彼女にはこれ以上時間を捻出することが難しく、たとえ休日を他の仕事にあてたとしても、ただのアルバイトが数百万を稼ぎ出すなど到底無理な話だ。

もちろん、高額の時給を出す店にも面接に行った。

しかし、自分の体を売ることはどうしてもできなかった。お金を準備できなければ、せっかくの治療を受けることができない。その現実を直視する時が来たのかもしれない。母親にはどう話そうか、そればかりを考えるようになった。

自分の無力さに打ちひしがれて、泣くことすらできない。

(先生には『お金はどうにかします』だなんていったけど、結局どうにもできなかった。今日こそは、お母さんにちゃんと話そう)

 仕事を終えた花名は、いつも通り母親の病院へ向かう。

重い足取りでバスに乗り込み、まるで暗示に掛けるようになんども自分に言い聞かせる。

そもそも限られた人間しか受けられない治療だったし、諦めることは仕方のないことだ――と。

それは同時に母の死を受け入れることに等しく、花名の小さな心は激しく痛んだ。

「お母さんごめんね」と何度も繰り返しながら、張り付けた笑顔で母親の病室のドアをノックする。