愛しい人

「心蔵疾患? それ、僕の父親が専門なんだよね」

「晴紀の親も医者だったっけ?」

 医学部では医者の子供もそう少なくなく、いちいち記憶にとどめておくほど珍しくもなかった。

「うん、そうそう。その筋では結構有名らしいよ」

 言いながら晴紀はテーブルに積んであった心臓外科学会の雑誌をペラペラとめくり、とあるページを純正にみせる。そこには大きな見出しに、ひげを蓄えた初老の男性の写真が大きく掲載されていた。

「これこれ、深山修司」

「心臓移植のスペシャリスト? すごいな、晴紀の親父さん」

「まあね~人間的にはクズだけど」

「クズだなんて、そんなこと言うもんじゃないよ」

 純正が窘めると、晴紀は「ごめん」といって肩を竦めた。

「でも、本当のことんあんだけどな。そんなやつでもよければ、話し通してやるよ。困ってることがあるんだろ?」

 晴紀の申し出に、純正は藁にも縋る思いで頭を下げた。