*
「悪役になり切れてないんだよな、純正は」
そう声を掛けられて、純正はハッとして顔を上げた。花名が診察室を出て行き、紹介元への手紙を書くつもりで専用のフォーマットを立ち上げた矢先のことだった。
「金のことなんていちいち言わずに、望んだとおりの治療をしてやればいいだろう」
「……晴紀か。立ち聞きなんて悪趣味だな」
診察室の奥の通路に向かって声を掛けると、白衣を着た男が姿を現した。
深山晴紀は純正と同じ医学部で学んだ。そして彼は深山記念病院の理事長の息子でもある。
「立ち聞き?人聞きの悪いこと言うなよ。たまたまだよ、たまたま。それよりあの子、花屋の子だろ」
ニヤリと笑った晴紀を一瞥し、純正はまたパソコンの画面に視線を戻した。
「だったらなんだ」
「あのこ、みんながかわいいって言ってるの知らねえの?」
晴紀はそう言って、机の上に置いてある花名の母親の紹介状を手に取った。
「やめろ、個人情報だぞ」
「なに言ってんだよ、僕もここの病院の医者なんだから見たっていいんだよ」
取り返そうとする純正の手を振り払って、晴紀は雅恵の病歴が書かれた書類に目を走らせる。
「悪役になり切れてないんだよな、純正は」
そう声を掛けられて、純正はハッとして顔を上げた。花名が診察室を出て行き、紹介元への手紙を書くつもりで専用のフォーマットを立ち上げた矢先のことだった。
「金のことなんていちいち言わずに、望んだとおりの治療をしてやればいいだろう」
「……晴紀か。立ち聞きなんて悪趣味だな」
診察室の奥の通路に向かって声を掛けると、白衣を着た男が姿を現した。
深山晴紀は純正と同じ医学部で学んだ。そして彼は深山記念病院の理事長の息子でもある。
「立ち聞き?人聞きの悪いこと言うなよ。たまたまだよ、たまたま。それよりあの子、花屋の子だろ」
ニヤリと笑った晴紀を一瞥し、純正はまたパソコンの画面に視線を戻した。
「だったらなんだ」
「あのこ、みんながかわいいって言ってるの知らねえの?」
晴紀はそう言って、机の上に置いてある花名の母親の紹介状を手に取った。
「やめろ、個人情報だぞ」
「なに言ってんだよ、僕もここの病院の医者なんだから見たっていいんだよ」
取り返そうとする純正の手を振り払って、晴紀は雅恵の病歴が書かれた書類に目を走らせる。


