愛しい人

出来ればこのような場では会いたくはなかった。

「どうも。消化器外科の結城です」

「小石川雅恵の娘の小石川花名と申します」

「どうぞ、おかけください」

 毎週顔を合わせているというに、まるで初対面の人間に取るような態度に花名は少々困惑したが、純正はあえてそう言う態度を取ってくれているのだと思うことにした。

純正に取って、目の前にいる花名は、あくまでも相談者でしかないのだろう。

それなら自分も純正としてではなく医者として話をしよう。そう花名は考えた。

「失礼します」

 花名が腰を落ち着けると、純正はゆっくりと体を正面に向けた。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 花名は小さく頭を下げ、そしてまた純正を見た。彼の凛々しい眼差しはもうすでに花名の持参した書類に向けられていた。

軽く伏せた長い睫はその頬に影を落とす。まるでギリシャ彫刻のようだと花名は思った。思わず見とれてしまいそうになって、花名は自分を戒めるように軽く唇をかんだ。