「そうでしたか。お忙しいところ、申し訳ありません」
恐縮したように花名が言うと、大津はとんでもないとでもいう様に、首を横に振って見せた。
「いえ、いいんですよ。毎月のことですから。それで、話ってセカンドオピニオンのことですかね」
「はい。……私、先生のことは信頼しています。でも、もし他のお医者さんの治療で母の病気が良くなるかもしれないのなら、それにかけてみたいんです。ごめんなさい」
花名は静かに頭を下げた。
「謝らなくていいんですよ。セカンドオピニオンは患者側の権利です。それに小石川さんの病気がなおるのなら、それに越したことはないと思っています」
大津は花名を安心させるように笑うと、「すぐに書類を作りますね」といってパソコンの電子カルテを開く。
専用のフォーマットを立ちあげて文章を打ち込むと、どこかへ電話をかけた。
「これから事務員さんに書類をまとめてもらいますので時間がかかります。すこしそこの待合室の椅子で待っていてください」
「はい。分かりました。ありがとうございます。それと先生、このことは母に内緒にしておいてください」
「そのことなんですが、お母様に同意を得ないといけません」
「そうなんですか?」
「今の時代、個人情報の扱いに厳しくて陰でこそこそと動くわけにはいかないんですよ。おそらく、同意書を持ってくるように言われると思いますのでそれに従ってください。深山記念で、よい話が聞けるといいですね」
「はい、ありがとうございました。失礼いたします」
花名は更に深々と頭を下げ、診察室の扉を閉めた。


