何度も食堂に足を運んでいるのに、純正にあったのは今日が初めてだ。
否応なしに花名の鼓動は早まった。
純正のいる右側だけが急速に火照っていくのを感じながらどうにかスプーンを動かす。
意識しないようにするほうが無理だ。
純正はハンバーグ定食を黙々と食べ進めている。
食堂にやって来た数名の看護師は純正の姿を見つけるとわざわざ近くを通り過ぎ「お疲れ様です」と声を掛けていく。
「お疲れ様」と純正が答えると、「きゃあ」と黄色い声が上がった。
これでは純正がゆっくりと食事もできないじゃないか。そう花名は思う。だから自分も話しかけたいのを必死でこらえているというのに。といっても、そんな勇気は花名にはない。出来るのはこの偶然に感謝することだけだ。
少しすると純正は掛かってきた電話に出た。食事を半分残したまま、立ち上がるとお膳を片付けて食堂から出て行ってしまった。
「……先生、いっちゃった」
花名は残念そうにつぶやくと、残った味噌汁を飲み干した。
火傷した口腔内がひりひりと痛んだが、純正に優しくされてよかった。なんて単純なんだろうと花名は自嘲気味に笑った。


