愛しい人

「小石川さん。そろそろ休憩にはいったら?」

 十二時半になり、客足が途絶えると樹は花名に声をかけた。

「はい。じゃあ、お先に行かせていただきます」

 花名はバックを手に取ると、病院の二階にある食堂へと向かった。

深山記念病院の食堂は管理栄養士が監修したメニューが売りで、誰でも利用できるように解放されている。

花名はいつも自作の弁当を持ってきているが、ここ何日かは自炊する余裕もなく食堂を利用していた。

患者や病院スタッフに紛れて、壁際のカウンター席に座る。味噌汁と日替わりの小鉢がついた親子丼と無料のほうじ茶。ワンコイン以下で食べられるのが魅力的だ。

「今日もおいしそう。いただきます!」

昼休みは一時間取っていいことになっているけれど、樹に店番をさせていることが気になってゆっくりとは休めそうにない。早退することも考えるとなおさらだ。

親子丼をスプーンですくって食べ、みそ汁で流し込んだ。

しかし、それは予想以上に熱かった。吹き出しそうになるのを堪えて飲み込むと口元を手で仰ぐ。

するとちょうど隣に座った誰かがクスリと笑った。

人の不幸を笑うなんてなんて酷い人だろう。

悔しさと恥ずかしさに花名は唇をかみしめる。するとその時、そっと氷水の入ったコップが差し出された。

「これどうぞ」

「……すみません」

 花名は両手でコップを掴むと氷水を口に含む。そして、確かめるように隣を見た。するとそこいたのは純正だった。